読売新聞 夕刊 2009年1月19日(月)

 

苗木に工夫 植樹を効率化
明日へ
楽しんで森づくり(4)

 ヒノキやスギの植樹は春先に始まる。1ヘクタールに4000本以上。山腹まで苗木を運び上げ、斜面に穴をうがち、植えるのは大変な作業で、1人1日せいぜい200本という。草が繁茂し苗が隠れると成長が遅れるため、夏場には下草刈りが必要だ。強い日差しの中、草刈り機を振るう。
 「そんな日本の植樹風景を変えようと思う」。三重県紀北町の「速見林業」の苗畑で、川端康樹さん(45)が50センチほど育った苗木を取り出した。セラミック製の細い筒に挿し木されている。別の棟では根がビニールに包まれていた。◆
 「このまま山に挿すだけ。穴は小さくてすみ、作業は早い」と川端さん。筒にはスリットが入っており、根の張る力が強くなれば割れる。ビニールも微生物で分解するタイプを開発中だ。汗を惜しまなければ、200本より少しは増やせるが、500本以上を目指すには苗木自体の革新が必要だった。
 何代にもわたる選抜を重ね、成長の早いヒノキの苗も作った。「1年で1メートル成長し、下草から頭を出す」。これで下草刈りは不要に。そのせいか鹿が植栽地に入らず、食害を抑制する効果まであった。
 苗木にこだわるのには理由がある。半世紀前、スギ1立法メートルを売って11人を雇うことができた。材価の値下がりと労賃のm上昇で、今や1人も雇えない。それが端的に表れたのが各地での植樹の断念だ。再投資の費用が出ない。今後も材価の好転は望み薄だ。苗1本の単価は割高になっても、画期的な効率化によるコスト削減しかない。「苗木業者に任せていてもだめ。山にとってどんな苗が必要か、4年ほどかけて自分たちで突き詰めた」という。◆
 速見林業は1000ヘクタール余の山林の先進的な経営で注目を浴びてきた。90歳となった前代表の速見勉さんは戦後、密植による暗い森を一変させ、間伐をして光を入れ、明るい森づくりに取り組んだ。下草や広葉樹も繁茂するヒノキの人工林は、自然林よりも多様な植物相を誇る。長男で現代表の亨さん(55)は、国際機関が「環境に配慮した林業」であることを認めるFSC認証を日本で最初に取得し、木材に付加価値をつけた。
 亨さんは現在、日本林業経営者協会会長。政府の審議会のメンバーになるなどして週の半分は東京だ。その留守を17人の従業員で預かる。山の管理と原木の販売を任された川端さんへの信頼は厚い。
 祖父、父に続いて速見林業の山を現場とした杣人(そまびと)は思う。「今、林業は過渡期。発想次第で大きく変わる。おやじたちの時代より大変だが、非常におもしろい時代だ」